アート・娯楽

劇作家・野田秀樹さんの英語劇「One Green Bottle」NY公演

03/06/20 21:00 (ET)
Image: 劇作家・野田秀樹さんの英語劇「One Green Bottle」NY公演

日本演劇界を牽引する劇作家の野田秀樹さんが、海外で上演することを前提に作った英語劇、「One Green Bottle(ワングリーンボトル)」が現在ニューヨークで上演されています。今回はその公演の模様と野田さんのインタビューをお送りします。

登場人物は、伝統芸能の家元の三人家族。厳格な父はテーマパークが大好きで、母はボーイズバンドに夢中。娘はコスプレ好きで、スマートフォンばかり見ています。

ある夜、3人にはそれぞれどうしても外出しなくてはならない理由がありました。しかし飼い犬が出産間近とあって、誰かが家に残り、面倒を見なくてはならないという状況に。

ウソ、裏切り、あの手この手を使って、それぞれが他の二人を欺き、何とか家を抜け出そうとします。それぞれが好きなものに固執するばっかりに、家族が一夜にして崩壊していくというストーリーです。

観客に感想を聞きました。「不思議で面白かったです。西洋ではなかなか見られないような作品です」「男女逆転して演じていたのがよかった」「素晴らしい舞台でした。家族がテクノロジーと共倒れしていく流れは興味深かったです」

公演が行われているラママ劇場は1961年に創設され、1970年に寺山修司作品を上演するなど、世界中の実験的な作品を紹介してきた劇場です。その劇場での公演は、野田さんにとって思い入れがあったと言います。

「やっぱり『ラママ』という名前は僕が若い時に、寺山修司という演出家の、その人の名前と共にあったんで、彼がここで上演したということは、その当時日本に届きましたから。そこで上演できるというのはすごい、それだけでテンションが上がる。ここのアーカイブを見せていただいて世界中から来た素晴らしい演出家たちとかの衣装や装置小道具とかが残っているんですけど。そういうものを見たときに、本当になんか、演劇を愛した人たちが手で触れたそのものだなっていう、どこの国でも芝居が好きな人の思いていうのは同じだなという風に思いました」

今回の舞台「One Green Bottle」の見どころの一つは、男性が女性役を女性が男性役を演じる演出です。「この芝居に関して言うと、男性が女性に対して、ひどい発言をしたり、女性が男性に対してひどい発言をするような作りになっているんですけど、ジェンダーを変えていることで、実はその言葉が自分に跳ね返ってくるわけですよね。男性は男性に跳ね返って来るし、女性は女性に跳ね返って来るような構造になっているんです」

あえて性別を逆にすることで、そのセリフが持つ意味を観客に伝わりやすくしたと言います。

(舞台のセリフ)
「知ってた? お父さんはあなたが女の子だから最初は生むなって言ったのよ」
「ちっとも驚かないわ」
「お父さんは自分の伝統芸能の継承の事しか考えていないのよ」
「何の話をしているんだ。また携帯か!」

またこの作品は、スマートフォンなどテクノロジーに依存した生活や。自己中心的になっていくネット社会への危機感を訴えています。

(舞台のセリフ)
「今壊した携帯、お母さんのよ!」
「助けて〜!」

「いわゆる文明の利器という古い言葉で言えば、そういうものの脆さみたいのを、果たしてニューヨークで暮らしているゆえにより感じてくれるか、もしくはむしろ鈍感であるか。まあ、単純に言うと携帯電話の中に全ての世界があると信じていて、どんどんどんどん世界が広がっているよっていう、そういうキャッチフレーズで世界中に広めていくけど、実は非常に自分の関心事だけに人間が閉じこもっていって、実は世界が狭くなっているかもしれない。そういうものを少しでも感じてもらうとありがたいかなと思います」
現代社会を鋭く風刺した作品で、常に話題を集めてきた野田さん。作品作りは、日々の生活の直感を大事にしていると言います。
「カフェとかにいって、どーんと座った若いやつが、しゃべりもせず、いきなり(携帯を)見始めたりするのを見ると、人間の対人間との接し方が急激に変わっているという。そういうことから作品を作ったりするんで、それがまあ社会的であるって言われればそうかもしれないですけど。普通に生きて、周りを見て、思っていることを表現している。出会ったものを自分の直感として面白いか面白くないかってことで生きていますので、そういう意味で言うと、これからの目標と言われても未来は自分の中では、未知ですね」
現在64歳のパワフルな野田さん。僕も尊敬しています。エネルギッシュな舞台をこれからも作り続けていってほしいです。
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